CHAPTER 4 – 市場流通の課題と将来展望
中央卸売市場花き部の誕生や、それにともなう卸売業者の統廃合により、卸売業者の規模が大きくなり、流通の大型化が進展しましたが、その一方で、取引方法も最近の10年間で劇的な変化を遂げています。
平成2年に開場した大田市場では、オランダ式の機械ゼリ(ダッチオークション/時計ゼリ)が導入され、その成功によって今では10数社が機械ゼリを導入しています。
従来のセリは、セリ人が場立ちし、手や声によって値段などのやり取りを行い、競り合いによって価格が徐々に上昇し最高値を示した買参人が購入する仕組みです。
それに対して、機械ゼリではスタート価格から徐々に下がる電光表示を見ながら購入希望になった時点で手元のボタンを押し、一番初めに(高値で)ボタンを押した人が購入できる仕組みです。
その違いにより従来のセリを上げゼリ、機械ゼリを下げゼリと呼びます。
機械ゼリの導入はセリ人による判断が少なく、高値、安値の判断を電子的に処理することから公平さや公開性に優れ、またコンピュータによる制御によることから、事務処理の迅速化などに優れています。
機械ゼリが多くの人に受け入れられ、普及したのも、この様な優位性が認められたからです。
また、中央市場の誕生や市場規模の拡大は、結果的にセリ販売の比率を下げるという傾向を見せています。つまり、中央卸売市場の誕生により、切り花の世界にも仲卸が介在する流通はシェアを伸ばすことになり、いっぽうで取引量の拡大によりスーパーやホームセンターなどの量販店による大量仕入れが容易になり、市場流通においても、量販店への販売シェアが拡大することになりました。
仲卸や量販店は、青果物の市場流通で見るように、先取り(時間前取引)による品揃えを求める傾向が強く、現実、大田市場が開場して以降、大手の卸売業者では彼らによる先取りが急拡大しています。
また、取引量の拡大はセリ時間を長くする結果を招き、長すぎるセリ時間は市場価格を不安定にするなどの弊害が見られます。そのために卸売業者にとっても、セリ時間を短くする先取り(時間前取引)や事前のオーダーによる注文取引を志向する傾向があり、結果的に大手市場ほど、それらの相対取引が拡大しています。
青果物の市場流通では、セリによる販売比率が20%以下というケースさえ見られますが、大田市場花き部では切り花のセリ販売は全体の1/3にまで低下しています。同様に、鉢物の取引では注文取引が拡大する傾向に あり、セリ販売の比率は6割を切るようになってきました。
このように、首都圏の大規模市場ほどセリ販売の比率が低下し、また、近畿や中京地区の大規模市場においても首都圏ほどでないにしても、相対販売の比率が増加する傾向にあります。
一方、中小の卸売市場においてはセリ取引が中心です。
セリ販売の比率が低くなる傾向は花き類よりも青果物や水産物などで顕著化していますが、この状況は「セリ売りまたは入札」を取引の原則と定めた卸売市場法の精神に反するものとして、長らく問題視されてきました。
それを受けて、平成12年に卸売市場法の部分改正を行い、セリ売りの原則を取り外して、多様な取引を認める方向で改正されました。すなわち、セリ取引と相対取引のいずれを取引の中心に据えるか、各市場に指定できるようになったのです。
そして、東京都中央卸売市場の5市場に入場する卸売会社は、相対取引を取引の中心に据える選択をしています。